タマカイ

タマカイ
かごしま水族館のタマカイ
保全状況評価[1]
DATA DEFICIENT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
: ハタ科 Epinephelidae
: アカハタ属 Epinephelus
: タマカイ E. lanceolatus
学名
Epinephelus lanceolatus
(Bloch, 1790)[1][2][3]
シノニム[2]
  • Holocentrus lanceolatus Bloch, 1790
  • Promicrops lanceolatus (Bloch, 1790)
  • Serranus lanceolatus (Bloch, 1790)
  • Serranus geographicus Valenciennes, 1828
  • Serranus abdominalis Peters, 1855
  • Batrachus gigas Günther, 1869
  • Oligorus goliath De Vis, 1882
  • Serranus phaeostigmaeus Fowler, 1907
  • Stereolepoides thompsoni Fowler, 1923
和名
タマカイ[3]
英名
Brindle bass[1]
Brindled grouper[1]
Giant grouper[1][2]
Queensland groper[1]

タマカイEpinephelus lanceolatus[4])は、スズキ目ハタ科に分類される魚類。ハタ科の中では最大級で、インド太平洋に広く分布する。

分類

1790年にドイツ医師博物学者であるマルクス・エリエゼル・ブロッホによって Holocentras lanceolatus として初めて正式に記載され、タイプ産地は東インド諸島とされた[5]フェリペ・ポエはタマカイとイタヤラ(当時は Epinephelus itajara のシノニムとされていた E. quinquefasciatus を含む)を Promicrops 属に分類したが、1972年にアカハタ属の亜属とされた。これらの種は依然として近縁と考えられている[6]

分布

インド太平洋に広く分布しており、ハタの中でも分布域は広い[7]紅海から東アフリカにかけて、南は南アフリカアルゴア湾(英語版)まで、東はインド洋を通って西太平洋のピトケアン諸島ハワイ諸島まで、北は南日本、南はオーストラリアまで分布する[1]。オーストラリアでは、西オーストラリア州北東部のロットネスト島から東海岸に沿ってニューサウスウェールズ州ウォイウォイ(英語版)まで見られる。クリスマス島やココス諸島タスマン海のElizabeth and Middleton Reefs Marine National Park Reserveにも分布する。南オーストラリア州ヤングハズバンド半島[8]ニュージーランド北東部からの記録もある[1]ペルシア湾には分布していないが[2]パキスタン沖とオマーン南部には分布する[1]バハマ諸島では侵入種に指定されているが、その地域での分布は検証が必要である[7]。日本では伊豆諸島小笠原諸島和歌山県鹿児島県沖縄島以南の琉球列島で確認例がある[9][10]

形態

標準的には体長は体高の2.4 - 3.4倍である。頭部の背側輪郭と眼窩は凸状である。鰓蓋の角は丸く、縁は細かい鋸歯状であり、上縁は凸状である[6]。背鰭は11棘と14-16軟条から、臀鰭は3棘と8軟条から成る[2][3]。口は大きく、尾鰭はわずかに丸みを帯びる。側線鱗は54 - 62枚である[6]。成魚の体色は灰褐色から暗褐色で、大きさの異なる白色斑が散らばり、鰭はより暗い色をしている。斑紋は成長とともに薄れ、種を特定することが困難になる[11]。幼魚は黄色く、鰭には幅広く不規則な暗色の横縞と、不規則な暗色の斑点がある[12]。一般的には全長180cmだが、最大全長は270cmに達し、最大体重は400kgとなる[2]。全長3mの記録があるともいわれる[13][14]サンゴ礁に生息する硬骨魚類としては最大である[1][3]

生態

浅瀬に生息し、生息水深は1-100mである。サンゴ礁に生息し、大型の個体は岸や港でも捕獲される[6]。海中洞窟や難破船でも見られるが、幼魚はサンゴ礁に隠れており、観察例は稀である[2]。成魚は主に単独で行動し、サンゴ礁の外側やラグーンに縄張りを持つ。サンゴ礁外側の崖や岩場でも観察される[15][16]。漁師によってシルトや泥底の濁った場所で捕獲された例もある[1]。日和見的な待ち伏せ型の捕食者であり、様々な魚類のほか、小型のサメウミガメの幼体、甲殻類軟体動物を丸呑みにして捕食する[17]。サンゴ礁や岩場ではイセエビ科を好む。ハワイのマウイ島沖で捕獲された全長177cmの個体の胃の内容物には、イセエビ類2匹と数匹のカニが含まれていた。南アフリカの河口においては、餌のほとんどがアミメノコギリガザミであると判明した[6]。寿命は長く、通常単独で生活するが、好奇心が強く、ダイバーに近づくことが多い。一般に人間にとって危険とは考えられていないが、大型個体には注意を払い、手で直接餌を与えないように喚起されている[17]

繁殖

ほとんどのハタ類と同様に、タマカイは雌性先熟雌雄同体である。産卵は月の満ち欠けに合わせて行われ、産卵期間は約7日間である。集団で産卵し、通常は雄1匹に対して雌が数匹で行われる。飼育下個体を用いた研究によると、産卵開始後最初の1、2日は優勢な雄と雌が産卵をするが、産卵が進むにつれて他の個体も多くの卵を受精させ、最近性転換した個体であっても繁殖に参加する[18]。一部の雄は雌として性成熟してから性転換するが、雌として性成熟することなく精子を作り始める場合もある[19]

人間との関係

沖縄県での方言名としてアーラーミーバイがある[3]。アーラミーバイは大型ハタ類の総称である[16][20]

食用として非常に価値が高く、商業漁業とスポーツフィッシングの両方で捕獲されている。香港では特に小型の個体が食用魚として重宝されており[1]、皮、胆嚢、胃は漢方薬として使用されている。鍋や刺身として調理され[21]、沖縄では高級料理にも用いられる[22]

養殖も普及しているが、稚魚の供給は限られている。台湾では飼育下で稚魚を生産しており、東南アジアの他の地域で飼育するために一部を輸出している[7]。台湾では「ハタの王」、「魚のボス」と称されている[23]。日本へ輸入もされている[11]。東京の築地市場にまれに入荷する[11]オーストラリアクイーンズランド州の海を象徴する魚である。食用にする沖縄県では、他の食用魚ヤイトハタとともに、タマカイの種苗生産技術を研究する[16]。沖縄県は2011年には日本国内で初めて人工授精に成功している[20]

超高級魚として知られるクエとかけ合わせた雑種として「クエタマ」が2011年に近畿大学水産研究所白浜実験場で作出されており、クエと同等の食味を持つ代用魚としての普及を目指し、養殖されている[24]。アカマダラハタとの雑種も多く養殖されている[1]

現代に繁栄している魚類の中では最もシーラカンスに似た形態や習性を持つとされている[25]。そのため、水族館アクアマリンふくしまでは、シーラカンスロボットとともに、タマカイを展示している[25]シカゴシェッド水族館では「Bubba」という名のタマカイが悪性腫瘍を患い、魚類では初めて化学療法を受けて回復に成功した[26]

人を襲ったという記録は無いが、オセアニアの一部の地域では、「タマカイはダイバーを丸飲みにしてしまう」として恐れられている。また、NHKでも「人を襲い、頭を丸のみした怪物」と放送している[27]

分布が非常に広大だが漁獲圧の高い地域では絶滅しており、分布域全体でもまれな種とされる[1]。生息数の推移に関するデータが不足していることから、2018年の時点で本種の生息状況に関しては不明とされている[1]。食用や薬用の乱獲・飼育施設などでの展示目的での採集などによる影響が懸念されている[1]。日本でも元々まれな種とされていたが近年は成魚の確実な確認・捕獲例がほぼなく、さらに減少することが懸念されている[10]。2017年の時点で、沖縄県レッドリストでは絶滅危惧IA類と判定されている[3]

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト[10]

ギャラリー

  • 幼魚
    幼魚
  • 全身骨格
    全身骨格
  • 腹側
    腹側
  • 剥製
    剥製

出典

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Fennessy, S.; Pollard, D.A.; Samoilys, M. (2018). “Epinephelus lanceolatus”. IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T7858A100465809. doi:10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T7858A100465809.en. https://www.iucnredlist.org/species/7858/100465809 2024年8月30日閲覧。. 
  2. ^ a b c d e f g Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2024). "Epinephelus lanceolatus" in FishBase. August 2024 version.
  3. ^ a b c d e f 立原一憲 「タマカイ」『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-』、沖縄県文化環境部自然保護課編、2017年、241頁。
  4. ^ 中村潤平, 本村浩之「ハタ科Serranidaeとされていた日本産各種の帰属,および高次分類群に適用する標準和名の検討」『IchthyNatural History of Fishes of Japan』第19巻、鹿児島大学総合研究博物館、2022年、26-43頁、doi:10.34583/ichthy.19.0_26、2022年11月24日閲覧 
  5. ^ “CAS - Eschmeyer's Catalog of Fishes Holocentrus lanceolatus”. researcharchive.calacademy.org. 2024年8月31日閲覧。
  6. ^ a b c d e Heemstra, P.C. & J.E. Randall (1993). FAO Species Catalogue. Vol. 16. Groupers of the world (family Serranidae, subfamily Epinephelinae). An annotated and illustrated catalogue of the grouper, rock-cod, hind, coral grouper and lyretail species known to date. FAO Fish. Synopsis. 125. FAO, Rome. pp. 174–175. ISBN 92-5-103125-8. http://www.fao.org/3/t0540e/t0540e26.pdf 
  7. ^ a b c “Epinephelus lanceolatus (giant grouper)”. CAB International. 30 August 2024閲覧。
  8. ^ Bray, D.J. (2019年). “Epinephelus lanceolatus”. Fishes of Australia. Museums Victoria. 30 August 2024閲覧。
  9. ^ 『小学館の図鑑Z 日本魚類館』236頁
  10. ^ a b c 環境省版海洋生物レッドリストの公表について 環境省レッドリスト2017 (環境省・2021年1月3日に利用)
  11. ^ a b c おさかな情報 No.25 2004年1月 2003年度 第4回展示テーマ ハタ類 水槽設備シムラ 2013-4-5閲覧[リンク切れ]
  12. ^ Bray, D.J. (2019年). “Epinephelus lanceolatus”. Fishes of Australia. Museums Victoria. 31 August 2024閲覧。
  13. ^ “タマカイ”. 美ら海生き物図鑑. 沖縄美ら海水族館. 2018年5月26日閲覧。
  14. ^ “館内探検マップ-特別展示 タマカイ”. 海洋文化館 Official Site. 2013年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月5日閲覧。
  15. ^ 生物対象群に関するテキスト情報 環境省 2013-4-5閲覧
  16. ^ a b c 竹本淳史 (2012-04-01). “サンゴ礁の巨大魚 タマカイ”. 広報誌「南ぬ風」 (沖縄美ら島財団): 15. https://churashima.okinawa/userfiles/files/topics/kouhoushi/vol023.pdf 2018年5月27日閲覧。. 
  17. ^ a b “Giant Queensland groper”. Department of Primary Industries. State of New South Wales. 31 August 2024閲覧。
  18. ^ Bright, David; Reynolds, Adam; Nguyen, Nguyen H. et al. (June 2016). “A study into parental assignment of the communal spawning protogynous hermaphrodite, giant grouper (Epinephelus lanceolatus)”. Aquaculture 459: 19–25. Bibcode: 2016Aquac.459...19B. doi:10.1016/j.aquaculture.2016.03.013. https://zenodo.org/record/1232168. 
  19. ^ Peter Palma; Akihiro Takemura; Gardel Xyza Libunaoa et al. (2019). “Reproductive development of the threatened giant grouper Epinephelus lanceolatus”. Aquaculture 509: 1–7. Bibcode: 2019Aquac.509....1P. doi:10.1016/j.aquaculture.2019.05.001. 
  20. ^ a b “タマカイ人工授精成功 県水産センター石垣”. 琉球新報. 琉球新報社 (2011年5月18日). 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月4日閲覧。
  21. ^ “全長230センチ!巨大魚“タマカイ””. さんさんテレビ. 高知さんさんテレビ (2007年11月26日). 2013年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月4日閲覧。
  22. ^ タイムス料理講習会|講習会レポート|2009年11月1日(第16回) カヌチャベイホテル&ヴィラズ(6品) 株式会社沖縄タイムスサービスセンター 2013-4-4閲覧
  23. ^ ハタ王国の栄光と危機 世界に誇るハタ王国2011年3月072ページ 文・李珊圖・薛継光 『台湾光華』雑誌(Taiwan Panorama) 台湾政府・新聞局 2013-4-5閲覧
  24. ^ “「非常においしい」と評判だけど見慣れない魚…「クエタマ」に胸張る研究者”. 読売新聞オンライン (2021年2月26日). 2023年3月13日閲覧。
  25. ^ a b “シーラカンス展示新しく アクアマリンふくしま”. 福島民報. 福島民報社 (2013年3月16日). 2013年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月4日閲覧。
  26. ^ “'Bubba,' Famed Cancer-surviving Grouper, R.I.P.; 'Overcame Some Incredible Odds'”. Underwatertimes.com News Service (Underwatertimes). (2006年8月24日). http://www.underwatertimes.com/news.php?article_id=71021389645 31 August 2024閲覧。 
  27. ^ NHK広報局 (2008年2月20日). “ハイビジョン特集 シリーズ 日本人カメラマン 野生に挑む”. 日本放送協会. 2013年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月4日閲覧。

参考文献

  • 中坊徹次編、栗岩薫執筆『小学館の図鑑Z 日本魚類館』小学館、2018年。ISBN 978-4-09-208311-0。 

関連項目

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