完全方陣
完全方陣(かんぜんほうじん)または汎魔方陣(はんまほうじん)[1]・汎対角線方陣(はんたいかくせんほうじん)・超魔方陣(ちょうまほうじん)[2]とは、条件を追加した魔方陣の一種である。
概要
通常の魔方陣は、縦列・横列及び対角線上の数の和が一定の値(定和)となる。完全方陣はそれに加え、対角線を平行移動させた列(以下「汎対角線」と呼ぶ)の和も定和になる。
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| 移動
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上の魔方陣は完全方陣の一例である。
- 左上から右下へ向かう対角線とそれに平行な汎対角線の和: 1+11+16+6 = 8+2+9+15 = 13+7+4+10 = 12+14+5+3 = 34
- 左下から右上へ向かう対角線とそれに平行な汎対角線の和: 12+2+5+15 = 1+7+16+10 = 8+14+9+3 = 13+11+4+6 = 34
完全方陣はその性質より、端の列を反対側に移しても完全方陣となる。例えば上の図で、最上段の 1 14 4 15 を最下段に移動させても対角線及び汎対角線の和は定和に等しい。
n×n の完全方陣では、縦横の列・対角線・汎対角線で最低 4n組の n個の数字の和が定和になるが、他にも定和となる組み合わせが存在する。4×4の完全方陣では、任意の小正方形の4隅の和が定和になるなど、52組の4数の和が定和となる。5×5の完全方陣では、ある数字とそれに接する4個の数字の和が定和になる。
完全方陣の数
上述の通り、完全方陣は1つ存在すれば列の移動によって他の完全方陣を作ることができる。このため、n×nの完全方陣の数は n2 の倍数となる。
4×4の完全方陣は48個あり[3][4]、3つのグループに分けられる。
5×5の完全方陣は3600個であり、144のグループに分けられる。
7×7以上の完全方陣の総数は分かっていないが、後述のラテン方陣を組み合わせる方法で 777600×72個を作ることができる[5]。
(4n+2)×(4n+2)の完全方陣は存在しないことが証明されている[6][7]。
作り方
完全方陣の作成には、2つの補助方陣を使用するのが一般的である。
n×n のマスに 1–n(または 0–(n-1))を n個ずつ入れ、各列と対角線の和が同じ数になるようにしたものを補助方陣という。完全方陣の作成の時には、汎対角線の和も同じ値になっている必要がある。
2つの方陣を重ねたとき、同じ組み合わせが存在しなければ、片方の数字を n 倍して和をとることで完全方陣を作ることができる。
n が3の倍数でない奇数の時には、このような性質を持つラテン方陣の組が存在するため容易に完全方陣を作ることができる。nがそれ以外(3か4の倍数)の時にはこのようなラテン方陣がないので、他の補助方陣を作成する必要がある。
6×6の完全方陣が存在しないことの証明
6×6の完全方陣が存在しないことは以下のように証明できる。10以上の(4n+2)×(4n+2)の完全方陣においても同様の方法で証明ができる。[8]
6×6の完全方陣が存在したとする。定和を C とおく。C=111であり、この数は奇数である。
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上の左側2つの図の○の場所の合計はそれぞれ 3C である。よって、右の(○の数の合計)+(◎の数の合計の2倍)=6C である。右の図の○は3本の独立した汎対角線でもあるため、○の合計は3C である。整理すると、(◎の数の合計)×2=3C だが、3C=333=奇数なので矛盾する。
よって6×6の完全方陣は存在しない。
この証明には、「入っている数字が連続数→定和が奇数」ということを前提にしている。入る数字が連続数でなければ定和が偶数になることもあるのでこの場合には完全方陣を作ることができる[9]。
4×4の完全方陣
3つのグループ
本質的には3つのグループに分けられる。回転や鏡像(裏返し)を同一とした場合、48通りがある[10]。
各、4つずつの縦横の位置が重ならない、特徴を持つ。
- B(計16通り) - 【1,5,9,13】 【2,6,10,14】 【3,7,11,15】 【4,8,12,16】
- BとC(計32通り) - 【1-4】 【5-8】 【9-12】 【13-16】
- CとA(計32通り) - 【1,3,5,7】 【2,4,6,8】 【9,11,13,15】 【10,12,14,16】
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1 - 16の位置関係
- 通常の4×4の方陣とは異なり、位置関係は限られる。例えば1の縦横の隣には8、12、14、15のみ。
- + 縦横の隣、/ 斜め隣or縦横の2つ先、@ 斜めの2つ先(和が17)、s skew position。
- 各マスから1を引いた図(0から15)も併記[8]。
- 全体を4ブロックに区分すると、★☆同士が対応。
- 縦横の隣で連数になるのは、4と5、12と13のみ。
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全48通り
- 以下の表は、四隅の数の組合せ一覧(それぞれ一番左上にあるものが、先に挙げた3つの形)。
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1-4-14-15 | 1-6-12-15 | 1-7-12-14 | 1-8-10-15 | 1-8-11-14 | 1-8-12-13 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
A |
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B |
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C |
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2-3-13-16 | 2-5-11-16 | 2-8-11-13 | 2-7-9-16 | 2-7-12-13 | 2-7-11-14 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
A |
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B |
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C |
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6-7-9-12 | 3-8-10-13 | 3-5-10-16 | 3-6-12-13 | 3-6-9-16 | 3-6-10-15 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
A |
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B |
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C |
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5-8-10-11 | 4-7-9-14 | 4-6-9-15 | 4-5-11-14 | 4-5-10-15 | 4-5-9-16 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
A |
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B |
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C |
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その他の特徴
- 四隅の数字の組合せが同じものは、計8つの数字が一致する。裏返しの回転のものとは、対角線と中央の、同様に計8つの数字が一致する。以下は、「4-5-11-14」の例。
| 00 |
| 00 |
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↓回転(同一扱い) | ↓回転(同一扱い) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 00 |
| 00 |
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- 8つずつの塊ごとの、移動
→ |
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↓ |
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- 足して17になる数同士の、全置換。四隅の数差が同じ同士の計24組がある。
四隅 4-5-11-14 | 四隅 13-12-6-3 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
| ⇔ |
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↓回転(同一扱い) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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四隅 | 差 | 四隅 | |||||
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BC | (15, 14, 4, 1) | 1, 4, 14, 15 | 3 | 10 | 1 | 16, 13, 3, 2 | (2, 3, 13, 16) |
BC | (12, 9, 7, 6) | 6, 7, 9, 12 | 1 | 2 | 3 | 11, 10, 8, 5 | (5, 8, 10, 11) |
AB | (15, 12, 6, 1) | 1, 6, 12, 15 | 5 | 6 | 3 | 16, 11, 5, 2 | (2, 5, 11, 16) |
AB | (13, 10, 8, 3) | 3, 8, 10, 13 | 5 | 2 | 3 | 14, 9, 7, 4 | (4, 7, 9, 14) |
AC | (14, 12, 7, 1) | 1, 7, 12, 14 | 6 | 5 | 2 | 16, 10, 5, 3 | (3, 5, 10, 16) |
AC | (13, 11, 8, 2) | 2, 8, 11, 13 | 6 | 3 | 2 | 15, 9, 6, 4 | (4, 6, 9, 15) |
AC | (15, 10, 8, 1) | 1, 8, 10, 15 | 7 | 2 | 5 | 16, 9, 7, 2 | (2, 7, 9, 16) |
AC | (13, 12, 6, 3) | 3, 6, 12, 13 | 3 | 6 | 1 | 14, 11, 5, 4 | (4, 5, 11, 14) |
AB | (14, 11, 8, 1) | 1, 8, 11, 14 | 7 | 3 | 3 | 16, 9, 6, 3 | (3, 6, 9, 16) |
AB | (13, 12, 7, 2) | 2, 7, 12, 13 | 5 | 5 | 1 | 15, 10, 5, 4 | (4, 5, 10, 15) |
BC | (13, 12, 8, 1) | 1, 8, 12, 13 | 7 | 4 | 1 | 16, 9, 5, 4 | (4, 5, 9, 16) |
BC | (14, 11, 7, 2) | 2, 7, 11, 14 | 5 | 4 | 3 | 15, 10, 6, 3 | (3, 6, 10, 15) |
脚注
- ^ 4 x 4 Complete magic square
- ^ 植野義明「教養の数学と魔方陣 : 4次の超魔方陣の解明」『東京工芸大学工学部紀要』第21巻第1号、1998年、86-92頁、ISSN 0387-6055、NAID 110001038406。
- ^ Panmagic Square -- from Wolfram MathWorld
- ^ 4次完全魔方陣のすべて
- ^ 内田伏一 2004, p. 53.
- ^ 山本行雄 2000, p. 124.
- ^ 大森清美 2013, p. 153.
- ^ a b 魔方陣について 埼玉大学理学部 櫻井力 2014年11月13日
- ^ 一例として『魔方陣の世界』P.207 に素数で作られた6×6の完全方陣が掲載されている。
- ^ 完全魔方陣 埼玉大学 櫻井力
参考文献
- 山本行雄『数のふしぎ・数のたのしみ 虫食い算と完全方陣』ナカニシヤ出版、2000年1月。ISBN 4-88848-506-2。
- 内田伏一『魔方陣にみる数のしくみ 汎魔方陣への誘い』日本評論社、2004年12月。ISBN 4-535-78421-3。
- 大森清美『方陣の世界』日本評論社、2013年8月。ISBN 978-4-535-78656-1。
外部リンク
- 完全魔方陣
- Weisstein, Eric W. "Panmagic Square". mathworld.wolfram.com (英語).
- 内田伏一「特殊な完全8方陣の分類に関する考察」『山形大学紀要 自然科学』第15巻第4号、山形大学、2004年2月、135-163頁、ISSN 05134692、NAID 110001074177。