腸間膜静脈硬化症

特発性腸間膜静脈硬化症 idiopatic mesenteric phlebosclerosis 内視鏡像(上行結腸)。典型的には上行結腸が暗色調を呈する。
特発性腸間膜静脈硬化症 idiopatic mesenteric phlebosclerosis Elastica-Masson-Trichrome。

腸間膜静脈硬化症(ちょうかんまくじょうみゃくこうかしょう, 静脈硬化性大腸炎とも)は、腸間膜静脈の線維性肥厚・石灰化によって起こる虚血性消化管疾患である[1]

原因

漢方薬の原料のひとつ、山梔子(さんしし)を服用していた症例が多く報告されている[2]。山梔子に含まれるゲニポシドは回盲部、特に盲腸で腸内細菌のβ-グルコシダーゼにより加水分解されてゲニピンとなり、これがアミノ酸タンパク質などと反応すると青色を呈する[3]。これが大腸の着色、および腸間膜静脈の線維化・石灰化を起こすと考えられている。

病理

組織病理所見としては

  1. 静脈壁の著明な線維性肥厚と石灰化
  2. 粘膜下層の高度な線維化と粘膜固有層の著明な膠原繊維の血管周囲性沈着
  3. 粘膜下層の小血管壁への泡沫細胞の出現
  4. 随伴動脈壁の肥厚と石灰化
  5. 血栓形成はない

などの所見がみられる[4]

血管周囲に沈着した膠原繊維は硝子変性を伴うため、Hematoxylin-Eosin染色(H-E染色)でアミロイド沈着に類似した像を呈するが、Congo-red染色やMasson trichrome染色、DFS染色で鑑別可能となる。

検査

  • 腹部単純X線写真
  • 腹部CT
    • CTでは腸管壁肥厚に加えて、腸管壁内外の静脈の線状、あるいは樹枝状石灰化がみられる。
  • 大腸内視鏡
    • 大腸内視鏡検査では、粘膜が青銅色に変化し、半月ひだ肥厚、時には潰瘍を伴う[5]

歴史

1993年、虚血性消化管疾患として独立した疾患であることが明らかとされた。[6]

疫学

2012年10月までの症例報告は台湾人8人、香港人1人を除くとすべて日本人に限られている[7]

脚注

  1. ^ 大津健聖, 松井敏幸, 西村拓, 平井郁仁, 池田圭祐, 岩下明徳, 頼岡誠, 畠山定宗, 帆足俊男, 古賀有希, 櫻井俊弘, 宮岡正喜「漢方薬内服により発症した腸間膜静脈硬化症の臨床経過」『日本消化器病学会雑誌』第111巻第1号、日本消化器病学会、2014年、61-68頁、CRID 1390001206402720128、doi:10.11405/nisshoshi.111.61、ISSN 0446-6586、PMID 24390259。 
  2. ^ 吉井新二, 塚越洋元, 久須美貴哉, 鈴木康弘「漢方薬の長期服用歴を認めた腸間膜静脈硬化症の4例」『日本大腸肛門病学会雑誌』第63巻第6号、日本大腸肛門病学会、2010年、389-395頁、CRID 1390282679833821696、doi:10.3862/jcoloproctology.63.389、ISSN 0047-1801。 
  3. ^ 井上博之: 梔子の科学, 現代東洋医 1983;4:48-54.
  4. ^ Iwashita, Akinori; Yao, Tsuneyoshi; Schlemper, Ronald J; Kuwano, Yasuyuki; Yao, Takashi; Iida, Mitsuo; Matsumoto, Takayuki; Kikuchi, Masahiro (2003). “Mesenteric phlebosclerosis: a new disease entity causing ischemic colitis”. Diseases of the colon & rectum (LWW) 46 (2): 209-220. doi:10.1007/s10350-004-6526-0. https://doi.org/10.1007/s10350-004-6526-0. 
  5. ^ 清水誠治「VI.腸間膜静脈硬化症」『日本大腸肛門病学会雑誌』第74巻第10号、2021年、606-612頁、doi:10.3862/jcoloproctology.74.606。 
  6. ^ 岩下明徳, 竹村聡, 山田豊, 長谷川修三, 八尾隆史, 宇都宮尚, 平川克哉, 黒岩重和, 村山寛, 飯田三雄, 八尾恒良「今月の主題 虚血性腸病変の新しい捉え方 主題 原因別にみた虚血性腸病変の病理形態」『胃と腸』第28巻第9号、株式会社医学書院、1993年8月、927-941頁、CRID 1390565159872910720、doi:10.11477/mf.1403106238、ISSN 0536-2180。 
  7. ^ 内藤裕史「腸間膜静脈硬化症と漢方生薬・山梔子との関係」(PDF)『日本医師会雑誌』第142巻第3号、日本医師会、2013年6月、585-591頁、ISSN 00214493。 
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