頂点関数

量子電磁力学における3点頂点関数の1ループ補正を表すファインマン・ダイアグラム。波線は光子、実線は電子を表す。

場の量子論において、頂点関数(ちょうてんかんすう、vertex function)とは、複数の粒子相互作用する過程を記述する相関関数である。量子電磁力学においては、電子のような荷電粒子仮想的な光子を吸収する(放出する)過程であり、3点頂点関数に対する1ループの頂点補正(ちょうてんほせい、vertex correction)は電子の異常磁気モーメントに支配的な寄与を及ぼす。

概要

頂点関数Γμは有効作用Γeff汎関数微分によって定義される。量子電磁力学における3点頂点関数は、電磁場との結合定数 eを用いて

Γ μ ( x , y , z ) = 1 e δ 3 Γ e f f ( ψ ¯ , ψ , A μ ) δ ψ ¯ ( x ) δ ψ ( y ) δ A μ ( z ) {\displaystyle \Gamma ^{\mu }(x,y,z)=-{1 \over e}{\frac {\delta ^{3}\Gamma _{\mathrm {eff} }({\bar {\psi }},\psi ,A_{\mu })}{\delta {\bar {\psi }}(x)\delta \psi (y)\delta A_{\mu }(z)}}}

となる。

頂点関数Γμの中で最も支配的な寄与は、頂点因子に含まれるガンマ行列γμである。さらに、頂点関数には量子電磁力学が持つ対称性(ローレンツ対称性ゲージ対称性)が要請され、その形式はワード=高橋恒等式によって以下のように制限されている。

Γ μ = γ μ F 1 ( q 2 ) + i σ μ ν q ν 2 m F 2 ( q 2 ) {\displaystyle \Gamma ^{\mu }=\gamma ^{\mu }F_{1}(q^{2})+{\frac {i\sigma ^{\mu \nu }q_{\nu }}{2m}}F_{2}(q^{2})}

ここで、 σ μ ν = ( i / 2 ) [ γ μ , γ ν ] {\displaystyle \sigma ^{\mu \nu }=(i/2)[\gamma ^{\mu },\gamma ^{\nu }]\,} であり、qνは外部から入射する光子の四元運動量である。係数F1(q2)とF2(q2)は形状因子(form factor)と呼ばれ、光子の運動量の2乗q2のみに依存する。ダイアグラムの最低次においては、F1(q2) = 1、F2(q2) = 0となり、このとき電子は内部構造を持たない点状粒子となっている。それ以上高次のF1(0)に対する補正は、繰り込みを用いて計算される。形状因子F2(0)は、電子の異常磁気モーメントaに対応しており、ランデのg因子を用いて以下のように表される。

a = g 2 2 = F 2 ( 0 ) {\displaystyle a={\frac {g-2}{2}}=F_{2}(0)}

計算例

量子電磁力学(QED)における3点頂点関数のファインマン・ダイアグラムの計算例を以下に示す。

各々の因子はファインマンルールの定義によって異なるが、ここではフェルミ粒子伝播関数 i / ( p / m + i ϵ ) {\displaystyle i/(p\!\!/-m+i\epsilon )} 、QEDの頂点因子 i e γ μ {\displaystyle -ie\gamma ^{\mu }\,} などを用いて、1ループの頂点補正を計算する。頂点関数Γμは裸の頂点因子γμに補正項δΓμを加えた形式で表される(頂点因子の係数-ieをつけて表せば、 i e Γ μ = i e γ μ i e δ Γ μ {\displaystyle -ie\Gamma ^{\mu }=-ie\gamma ^{\mu }-ie\delta \Gamma ^{\mu }\,} )から、δΓμに対応するダイグラムを計算すればよい。入射するフェルミ粒子の運動量をp、外部から入射する光子の運動量をq、ループを作る仮想光子の運動量をkとすると、δΓμ

= d 4 k ( 2 π ) 4 ( i e γ ν ) i p / k / m + i ϵ ( γ μ ) i k / + q / m + i ϵ ( i e γ ρ ) i g ν ρ k 2 + i ϵ {\displaystyle \int {\frac {d^{4}k}{(2\pi )^{4}}}(-ie\gamma ^{\nu }){\frac {i}{p\!\!/-k\!\!\!/-m+i\epsilon }}(\gamma ^{\mu }){\frac {i}{k\!\!\!/+q\!\!\!/-m+i\epsilon }}(-ie\gamma ^{\rho }){\frac {-ig_{\nu \rho }}{k^{2}+i\epsilon }}\,}

となる。上記のダイアグラムには便宜上、フェルミ粒子や光子の外線が引かれているが、頂点補正の計算に含まれるのは実線(フェルミ粒子)2本+波線(光子)から成るループ部分のみである。

参考文献

  • M.E. Peskin; D.V. Schroeder (1995). An Introduction To Quantum Field Theory. Westview Press. ISBN 978-0201503975 

関連項目