MOBIRY DAYS

MOBIRY DAYS（モビリーデイズ）は、広島電鉄（広電）が日本電気 (NEC)、レシップと共同開発し、2024年7月から広電及びグループ各社で導入する、乗車券の電子決済システム。

概要

他の乗車カードがICカード/プリペイドカード側でストアードフェア (SF) 残高や定期券情報を保持し、車載器との交信で残高の加除情報をカード側に書き込むカードベースドチケッティング (Card Based Ticketing, CBT) 方式を採用しているのに対し、スマートフォンアプリやICカードが保持するID番号を介して登録済み利用者の情報をクラウドサーバ側で管理し決済を行うアカウントベースドチケッティング (Account Based Ticketing, ABT) 方式を日本で初めて採用するのを特色とする^[1]。これにより、CBT方式では高速な計算処理を行う端末（駅・車両側の機器）が必要になるのに対し、ABT方式では車載端末側ではID番号の読み取りのみを行うだけで済む（決済取引は車載端末とクラウドサーバーとの無線交信で実施する）ため、導入コストの削減がはかれるとしている^[2]。

導入の背景

「PASPY#サービス終了に向けた動き」も参照

広電をはじめとする広島県内の交通事業者では、1993年から磁気式プリペイドカード型の乗車カード「バスカード」を導入し、更に2008年からはバスカードの後継システムとして、非接触型IC乗車カード「PASPY」にシステム移行し、交通系ICカード全国相互利用サービスの片利用（該当カードのPASPYエリアでの利用）に対応させてきた。

しかし、広電社長の椋田昌夫は2021年6月29日の株主総会で、PASPYが参加各社が利用比率に応じて分担している7-8年ごとのシステム更新費に約50億円を要し、利用比率の高い広電がそのほぼ半額（約20億円）を負担していることに懸念を示し、PASPY事業からの撤退とQRコード決済への移行を表明^[3]（このことが引き金となり^[4]、PASPY自体もサービス終了が決定した）。

2022年3月4日、広電はNEC、レシップとの3社共同で、ABT方式による新たな乗車システムの検討に着手したことを公表し、2024年10月のサービス開始を目途として開発を行うことを明らかにした^[5]。その後、詳細な仕様の決定を進めた結果、2023年10月23日にサービスの名称を広電のMaaSアプリ「MOBIRY」に由来する「MOBIRY DAYS」とすることを発表、主なサービス内容を公表した^[6]。

他の交通系ICカードの利用について

MOBIRY DAYSはPASPYと異なり交通系ICカード全国相互利用サービスとの互換性がない。このため、交通系ICカードについてはICOCAの簡易型端末^{[注釈 1]}を新たに導入することで、PASPYのサービス終了後も引き続き利用可能とする^[8]^{[注釈 2]}。ただし、電車・バス車内でのICOCAチャージは不可となる^[8]ほか、定期券としてのICOCA利用も不可で、カード内チャージ残額での利用に限られる予定。

PASPYサービス終了翌日の2025年3月30日から、これらの取り扱いを開始する予定としている^[10]。

導入予定事業者と導入予定路線

以下の各社各路線で導入が予定されている^[11]。†のついた路線は交通系ICカード全国相互利用サービスへの対応路線^[8]。

電車・一般路線バス

広島電鉄^† - 電車・バス全線（松江線、米子線を除く）。
芸陽バス^† - 全線（安芸津海風バスを除く）。
備北交通^† - 全線（東城市街地循環バス、東城廃止代替バスを除く）。
エイチ・ディー西広島^† - 全線。
宮島松大汽船^[12]^† - 宮島航路

ICOCAを導入する広島バス、広島交通、中国ジェイアールバスも、MOBIRY DAYSの導入に向けた準備を始めるとしている^[13]。

コミュニティバス

呉市生活バス^[14]
- なべタクシー - 音戸さざなみ線、田原藤の脇線
- 富士交通 - 三条二河宝町線、横路交叉点循環線、白石白岳交叉点循環線、仁方小須磨線、安浦地区生活バス
- 野呂山タクシー - 広長浜線
- 朝日交通 - 昭和循環線・北コース、昭和循環線・中央コース、昭和循環線・南コース
- 東和交通 - 呉苗代下条線、北原神山峠線、見晴町線
- 呉交通 - 阿賀音戸の瀬戸線
- 倉橋交通 - 倉橋地区生活バス（長谷線を除く）
- 瀬戸内産交 - 広川尻線
廿日市市自主運行バス^[15]
- 廿日市カープタクシー - 廿日市さくらバス　宮内ルート、阿品台ルート
- 廿日市交通 - 廿日市さくらバス　佐方ルート、原ルート
- ささき観光 - おおのハートバス
- 佐伯交通 - 佐伯さくらバス　玖島線
- 津田交通 - 佐伯さくらバス　浅原線、吉和さくらバス
安芸郡府中町「つばきバス」^[16]
- 広島電鉄 - 右回り、左回り

利用方法

会員登録

利用に当たっては事前の会員登録が必要となり、専用のウェブサイトもしくはスマートフォンアプリ上でメールアドレスとチャージ決済用のクレジットカード（ブランドがJCB、VISA、Master、AMEX、Dinersで、3Dセキュア2.0に対応していることが必須^[17]）を設定する必要がある。ICカードの発行もアプリ上から申し込むことを原則とする。

チャージ決済手段にクレジットカードではなく銀行口座からの引き落とし（広島銀行のみ取扱い）を選択することも可能だが、その場合は有人の取扱窓口^{[注釈 3]}で会員登録を行う必要がある^[17]。また、メールアドレスがない場合、或いは決済手段を持たない（現金でのチャージのみ行う）場合でも会員登録は可能だが、その場合も取扱窓口^{[注釈 3]}で会員登録とICカード発行を申し込む必要がある^[20]^[21]。

チャージ・決済

会員登録終了後、スマートフォンアプリにより指定金額をチャージする（オートチャージにも対応する）。銀行口座からの引き落としの場合、手数料がチャージ1回につき25円発生する。アプリで完結するモバイル決済を前提としており、現金チャージは取扱窓口^{[注釈 3]}でのICカードへのチャージに限定され、バス・電車車内での現金チャージには対応しない。

利用時には、乗車時及び降車時に車両端末にスマートフォンアプリのQRコードもしくはICカードをかざす。利用前にアプリ決済かICカード決済のどちらかを選ぶ必要があるため、一つの会員情報でスマートフォンアプリとICカードを同時に利用することは出来ない。車内での現金チャージに対応していないため、残高不足になりクレジットカードもしくは銀行口座からのチャージが出来ない場合は不足額を現金で支払うことになる^[22]。

歴史

2021年（令和3年）6月29日 - 広島電鉄の株主総会で椋田昌夫社長がPASPYからの離脱とQRコード決済導入を表明^[3]。
2022年（令和4年）3月4日 - 広島電鉄が新決済システムの開発に着手したことを公表^[5]。
2023年（令和5年）10月23日 - 新決済システムによるサービス名を「MOBIRY DAYS」とし、サービスの詳細を公表^[6]。
2024年（令和6年）
- 7月20日 - 広島電鉄バスと備北交通が運行する高速バス「広島 - 三次 - 庄原 - 東城線」と備北交通の一般路線の大半（高田南部線、東城市街地循環バス、東城廃止代替バスを除く全路線）で「MOBIRY DAYS」のサービスを開始（予定）^[11]。
- 9月7日 - 広島電鉄の電車・バス全線（松江線、米子線を除く）、芸陽バス全線（安芸津海風バスを除く）、備北交通の高田南部線、ボン・バス全線でサービス開始（予定）^[11]。

脚注

注記

^ 西日本旅客鉄道とJR西日本テクシアが開発した、バス・地域鉄道向けICOCAシステム対応の簡易型IC端末^[7]。
^ 広電は当面の間、MOBIRY DAYSとICOCAの2種類の読み取り機を電車やバスに搭載するものの、将来的にはICOCAの読み取りもMOBIRY DAYSの読み取り機で可能とし、端末を共通化したいとしている^[9]。
^ ^a ^b ^c 2024年7月20日時点では広島電鉄広島北営業課（広島市西区）、広島バスセンター（広島市中区）、備北交通本社（庄原市）、三次市交通観光センター（三次市）の4箇所のみ^[18]。2024年9月7日からは広島電鉄の各営業センター・営業所、及び芸陽バスの各営業所に取扱窓口を設ける^[19]。

出典

^ “広島電鉄、ABT方式の新乗車システムを2024年に稼働、チャージ残高や定期券などの情報をクラウドで保持”. IT Leaders. Impress Watch (2022年3月7日). 2024年7月9日閲覧。
^ “本邦初！ABT方式の乗車券システムを商用化する”. bp-Affairs. 一般社団法人ビジネス＆パブリックアフェアーズ (2022年3月8日). 2024年7月9日閲覧。
^ ^a ^b “パスピーをQRコードに集約検討広電社長、メリット説明”. 中国新聞. (2021年6月29日). https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/78857 2024年7月9日閲覧。
^ 「パスピー廃止方針に業界動揺広電抜けると成り立たず【フィーチャー】」『中国新聞』2021年7月28日。2024年7月8日閲覧。
^ ^a ^b 『スマートフォンに表示させたQRコードや新たな交通系ICカードを認証媒体とする新乗車券システムの開発に着手します』（プレスリリース）広島電鉄、2022年3月4日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2022/0304-newticketingsystem.html。2022年3月4日閲覧。
^ ^a ^b 『新たな乗車券サービスの名称と主なサービス内容が決定しました』（プレスリリース）広島電鉄、日本電気、レシップ、2023年10月23日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2023/pdf/1023-newticketingsystem/newticketingsystem.pdf。2024年7月9日閲覧。
^ 『バス・地域鉄道へのICOCA展開の取り組み～簡易型IC端末の導入について～』（プレスリリース）西日本旅客鉄道・JR西日本テクシア、2022年2月22日。https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220222_04_icoca.pdf。2024年2月7日閲覧。
^ ^a ^b ^c 『「PASPY」サービス終了後のICOCAなどの全国相互利用が可能な交通系ICカード対応について』（プレスリリース）広島電鉄、2024年2月7日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2024/pdf/0207-10cards/20240207_10cards.pdf。2024年2月7日閲覧。
^ “パスピー後継　広島電鉄新乗車システム「モビリーデイズ」とは？　割引、連携など利便性は上がるの？　広島”. テレビ新広島 (2023年10月27日). 2023年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年7月11日閲覧。
^ 『MOBIRY DAYSでのサービス展開について』（プレスリリース）広島電鉄、2024年3月15日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2024/pdf/0315-mobirydays/pressrelease-mobirydays.pdf。2024年3月15日閲覧。
^ ^a ^b ^c 『新乗車券システムMOBIRY DAYSサービス開始について』（プレスリリース）広島電鉄、2024年7月5日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2024/0705-mobirydays_1.html。2024年7月9日閲覧。
^ “2024年度安全報告書” (PDF). 宮島松大汽船 (2024年4月). 2024年7月11日閲覧。
^ 『交通系ICカード　ICOCA導入のお知らせ』（プレスリリース）広島バス・広島交通・中国ジェイアールバス・西日本旅客鉄道、2024年7月5日。https://www.hirobus.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2024/07/62515e694c089fdcaa3e56b66934aad6.pdf。2024年7月6日閲覧。
^ “PASPYの廃止に伴う呉市生活バスへの新乗車券システムの導入について” (PDF). 呉市 (2023年11月). 2024年2月5日閲覧。
^ “市自主運行バス全線へのMOBIRY DAYS（モビリーデイズ）の導入について” (PDF). 廿日市市 (2024年7月10日). 2024年7月11日閲覧。
^ “府中町地域公共交通計画の改訂について” (PDF). 府中町 (2023年12月). 2024年2月5日閲覧。
^ ^a ^b “支払い手段”. MOBIRY DAYS公式サイト. 2024年7月13日閲覧。
^ “取扱窓口一覧”. MOBIRY DAYS. 2024年7月9日閲覧。
^ 『新乗車券システム「MOBIRY DAYS」サービス開始です！』（プレスリリース）広島電鉄、2024年7月5日。https://www.hiroden.co.jp/topics/2024/pdf/0705-mobirydays/pressrelease-mobirydays.pdf。2024年7月9日閲覧。
^ “クレジットカード・銀行口座をお持ちの方”. MOBIRY DAYS公式サイト. 2024年7月13日閲覧。
^ “現金支払いをご希望の方”. MOBIRY DAYS公式サイト. 2024年7月13日閲覧。
^ “乗車方法”. MOBIRY DAYS公式サイト. 2024年7月17日閲覧。