1986年の野球において、メジャーリーグベースボール(MLB)のポストシーズンは10月7日に開幕した。アメリカンリーグの第18回リーグチャンピオンシップシリーズ(18th American League Championship Series、以下「リーグ優勝決定戦」と表記)は、同日から15日にかけて計7試合が開催された。その結果、ボストン・レッドソックス(東地区)がカリフォルニア・エンゼルス(西地区)を4勝3敗で下し、11年ぶり10回目のリーグ優勝および9回目のワールドシリーズ進出を果たした。
両球団がリーグ優勝決定戦で対戦するのはこれが初めて。この年のレギュラーシーズンでは両球団は12試合対戦し、エンゼルスが7勝5敗と勝ち越していた[1]。エンゼルス抑え投手のドニー・ムーアはその12試合中3試合4.0イニングに登板、2セーブ・防御率0.00を記録した[2]。しかし今シリーズでは、エンゼルスが3勝1敗とリーグ優勝に王手をかけて迎えた第5戦、1点リードの9回表二死一塁で登板してデーブ・ヘンダーソンに逆転2点本塁打を浴びると、味方打線が同点に追いついたあとの延長11回表にもヘンダーソンに勝ち越しの犠牲フライを許し、敗戦投手となった。エンゼルスが続く2試合にも連敗して逆転で優勝を逃したため、ムーアは戦犯として非難され心身に不調をきたし、1989年7月に妻を銃撃して重傷を負わせたあと自らの頭を撃ち抜いて自殺する[3]。シリーズMVPには、第6戦で勝ち越し・決勝の適時二塁打を放つなど、7試合で打率.367・5打点・OPS.840という成績を残したレッドソックスのマーティー・バレットが選出された。しかしレッドソックスは、ワールドシリーズではナショナルリーグ王者ニューヨーク・メッツに3勝4敗で敗れ、68年ぶり6度目の優勝を逃した。
当時、リーグ優勝決定戦の第1・2・6・7戦を本拠地で開催できる "ホームフィールド・アドバンテージ" は所属地区の持ち回りで決まっており、この年は本来であればアメリカンリーグ西地区とナショナルリーグ東地区の優勝球団に与えられるはずだった。しかし実際には、アメリカンリーグ東地区とナショナルリーグ西地区の優勝球団がアドバンテージを得た。これは、ナショナルリーグ西地区優勝球団ヒューストン・アストロズの本拠地球場アストロドームが野球専用球場ではなく、アメリカンフットボールでも使用されるからである。ナショナルリーグ優勝決定戦・第4戦開催予定日の10月12日、アストロドームではNFLのヒューストン・オイラーズが試合を行うことになっていたため、同シリーズは第3~5戦の開催地を東地区優勝球団ニューヨーク・メッツの本拠地球場シェイ・スタジアムへ移さざるを得ず、アドバンテージ付与地区を入れ替えた[4]。
試合結果
1986年のアメリカンリーグ優勝決定戦は10月7日に開幕し、途中に移動日を挟んで9日間で7試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付 | 試合 | ビジター球団(先攻) | スコア | ホーム球団(後攻) | 開催球場 |
10月07日(火) | 第1戦 | カリフォルニア・エンゼルス | 8-1 | ボストン・レッドソックス | フェンウェイ・パーク | |
10月08日(水) | 第2戦 | カリフォルニア・エンゼルス | 2-9 | ボストン・レッドソックス |
10月09日(木) | | 移動日 | |
10月10日(金) | 第3戦 | ボストン・レッドソックス | 3-5 | カリフォルニア・エンゼルス | アナハイム・スタジアム |
10月11日(土) | 第4戦 | ボストン・レッドソックス | 3-4x | カリフォルニア・エンゼルス |
10月12日(日) | 第5戦 | ボストン・レッドソックス | 7-6 | カリフォルニア・エンゼルス |
10月13日(月) | | 移動日 | |
10月14日(火) | 第6戦 | カリフォルニア・エンゼルス | 4-10 | ボストン・レッドソックス | フェンウェイ・パーク |
10月15日(水) | 第7戦 | カリフォルニア・エンゼルス | 1-8 | ボストン・レッドソックス |
優勝:ボストン・レッドソックス(4勝3敗 / 11年ぶり10度目) |
第1戦 10月7日
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 4 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 8 | 11 | 0 |
ボストン・レッドソックス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 5 | 1 |
- 勝利:マイク・ウィット(1勝)
- 敗戦:ロジャー・クレメンス(1敗)
- 審判
[球審]ラリー・バーネット
[塁審]一塁: ラリー・マッコイ、二塁: テリー・クーニー、三塁: ニック・ブレミガン
[外審]左翼: ロッキー・ロー、右翼: リッチ・ガルシア - 試合開始時刻: 東部夏時間(UTC-4)午後8時30分 試合時間: 2時間52分 観客: 3万2993人
詳細: Baseball-Reference.com
第2戦 10月8日
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 11 | 3 |
ボストン・レッドソックス | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 | 3 | X | 9 | 13 | 2 |
- 勝利:ブルース・ハースト(1勝)
- 敗戦:カーク・マッカスキル(1敗)
- 本塁打
CAL:ウォーリー・ジョイナー1号ソロ
BOS:ジム・ライス1号2ラン - 審判
[球審]ラリー・マッコイ
[塁審]一塁: テリー・クーニー、二塁: ニック・ブレミガン、三塁: ロッキー・ロー
[外審]左翼: リッチ・ガルシア、右翼: ラリー・バーネット - 試合開始時刻: 東部夏時間(UTC-4)午後3時5分 試合時間: 2時間47分 観客: 3万2786人
詳細: Baseball-Reference.com
第3戦 10月10日
映像外部リンク |
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MLB.comによる動画(英語) |
サミー・デイヴィスJr.による試合前のアメリカ合衆国国歌『星条旗』独唱(2分30秒) |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E |
ボストン・レッドソックス | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 3 | 9 | 1 |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 3 | 1 | X | 5 | 8 | 0 |
- 勝利:ジョン・キャンデラリア(1勝)
- セーブ:ドニー・ムーア(1S)
- 敗戦:オイルカン・ボイド(1敗)
- 本塁打
CAL:ディック・スコーフィールド1号ソロ、ゲイリー・ペティス1号2ラン - 審判
[球審]テリー・クーニー
[塁審]一塁: ニック・ブレミガン、二塁: ロッキー・ロー、三塁: リッチ・ガルシア
[外審]左翼: ラリー・バーネット、右翼: ラリー・マッコイ - 試合開始時刻: 太平洋夏時間(UTC-7)午後5時25分 試合時間: 2時間48分 観客: 6万4206人
詳細: Baseball-Reference.com
第4戦 10月11日
映像外部リンク |
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MLB.comによる動画(英語) |
延長11回裏一死一・二塁、ボビー・グリッチの左前打でエンゼルスがサヨナラ勝利、リーグ優勝に王手をかける(1分5秒) |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | R | H | E |
ボストン・レッドソックス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 3 | 6 | 1 |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 1x | 4 | 11 | 2 |
- 勝利:ダグ・コーベット(1勝)
- 敗戦:カルビン・シラルディ(1敗)
- 本塁打
CAL:ダグ・デシンセイ1号ソロ - 審判
[球審]ニック・ブレミガン
[塁審]一塁: ロッキー・ロー、二塁: リッチ・ガルシア、三塁: ラリー・バーネット
[外審]左翼: ラリー・マッコイ、右翼: テリー・クーニー - 試合開始時刻: 太平洋夏時間(UTC-7)午後5時25分 試合時間: 3時間50分 観客: 6万4223人
詳細: Baseball-Reference.com
第5戦 10月12日
映像外部リンク |
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MLB.comによる動画(英語) |
6回裏、ボビー・グリッチの飛球が中堅手デーブ・ヘンダーソンのグラブをこぼれて外野フェンスを越え、2点本塁打となってエンゼルスが逆転(1分40秒) |
9回表、3点を追うレッドソックスの先頭打者ビル・バックナーが中前打で出塁(49秒) |
一死後、ドン・ベイラーの2点本塁打でレッドソックスが1点差に迫る(50秒) |
さらに二死一塁から、ヘンダーソンの2点本塁打でレッドソックスが逆転(1分22秒) |
延長11回表、ヘンダーソンの犠牲フライでレッドソックスが勝ち越し(33秒) |
その裏カルビン・シラルディがブライアン・ダウニングを一邪飛に打ち取り試合終了、レッドソックスが2勝目を挙げる(1分8秒) |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | R | H | E |
ボストン・レッドソックス | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 1 | 7 | 12 | 0 |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 6 | 13 | 0 |
- 勝利:スティーブ・クロフォード(1勝)
- セーブ:カルビン・シラルディ(1敗1S)
- 敗戦:ドニー・ムーア(1敗1S)
- 本塁打
BOS:リッチ・ゲドマン1号2ラン、ドン・ベイラー1号2ラン、デーブ・ヘンダーソン1号2ラン
CAL:ボブ・ブーン1号ソロ、ボビー・グリッチ1号2ラン - 審判
[球審]ロッキー・ロー
[塁審]一塁: リッチ・ガルシア、二塁: ラリー・バーネット、三塁: ラリー・マッコイ
[外審]左翼: テリー・クーニー、右翼: ニック・ブレミガン - 試合開始時刻: 太平洋夏時間(UTC-7)午後0時5分 試合時間: 3時間54分 観客: 6万4223人 気温: 80°F(26.7°C)
詳細: Baseball-Reference.com
第6戦 10月14日
映像外部リンク |
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MLB.comによる動画(英語) |
3回裏、レッドソックス打線が集中打と敵失で5点を勝ち越し(1分46秒) |
9回表、ボブ・スタンリーがダグ・デシンセイを中飛に打ち取り試合終了、レッドソックスの連勝で3勝3敗のタイに(28秒) |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E |
カリフォルニア・エンゼルス | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 4 | 11 | 1 |
ボストン・レッドソックス | 2 | 0 | 5 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | X | 10 | 16 | 1 |
- 勝利:オイルカン・ボイド(1勝1敗)
- 敗戦:カーク・マッカスキル(2敗)
- 本塁打
CAL:ブライアン・ダウニング1号ソロ
- 審判
[球審]リッチ・ガルシア
[塁審]一塁: ラリー・バーネット、二塁: ラリー・マッコイ、三塁: テリー・クーニー
[外審]左翼: ニック・ブレミガン、右翼: ロッキー・ロー - 試合開始時刻: 東部夏時間(UTC-4)午後8時25分 試合時間: 3時間23分 観客: 3万2998人
詳細: Baseball-Reference.com
第7戦 10月15日
映像外部リンク |
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MLB.comによる動画(英語) |
スージン・ウォルドマンによる試合前のアメリカ合衆国国歌『星条旗』独唱(1分48秒) |
2回裏、ウェイド・ボッグスの2点適時打でレッドソックスがリードを3点に広げる(49秒) |
7回表、ロジャー・クレメンスがボブ・ブーンを一邪飛に打ち取りイニング終了(31秒) |
その裏、ドワイト・エバンスのソロ本塁打でレッドソックスが8点目を奪う(45秒) |
9回表、カルビン・シラルディが代打ジェリー・ナロンを空振り三振に仕留めて試合終了、レッドソックスのリーグ優勝が決定(1分15秒) |
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E |
カリフォルニア・エンゼルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 6 | 2 |
ボストン・レッドソックス | 0 | 3 | 0 | 4 | 0 | 0 | 1 | 0 | X | 8 | 8 | 1 |
- 勝利:ロジャー・クレメンス(1勝1敗)
- 敗戦:ジョン・キャンデラリア(1勝1敗)
- 本塁打
BOS:ジム・ライス2号3ラン、ドワイト・エバンス1号ソロ - 審判
[球審]ラリー・バーネット
[塁審]一塁: ラリー・マッコイ、二塁: リッチ・ガルシア、三塁: ニック・ブレミガン
[外審]左翼: ロッキー・ロー、右翼: なし - 試合開始時刻: 東部夏時間(UTC-4)午後8時25分 試合時間: 2時間39分 観客: 3万3001人
詳細: Baseball-Reference.com
評価
『ハードボール・タイムズ』のクリス・ジャフは2011年10月、歴代のポストシーズン各シリーズについて、面白さの数値化を試みた。「1点差試合は3ポイント、1-0の試合ならさらに1ポイント」「サヨナラゲームは10ポイント、サヨナラが本塁打によるものならさらに5ポイント」「7試合制のシリーズが最終戦までもつれれば15ポイント」などというように、試合経過やシリーズの展開が一定の条件を満たすのに応じてポイントを付与することで、主観的ではなく定量的な評価を行った。その結果、その年の両リーグ優勝決定戦まで全262シリーズの平均が45ポイントのところ、今シリーズは103ポイントを獲得した。これは全シリーズ中15位、リーグ優勝決定戦に限れば9位の高得点だった[5]。
脚注
- ^ "1986 California Angels Schedule," Baseball-Reference.com. 2021年3月10日閲覧。
- ^ "Donnie Moore 1986 Pitching Splits," Baseball-Reference.com. 2021年3月10日閲覧。
- ^ 出野哲也 「ダークサイドMLB "裏歴史" の主人公たち ドニー・ムーア」 『隔月刊スラッガー』2016年11月号、日本スポーツ企画出版社、2016年、雑誌15509-11、82-84頁。
- ^ Jim Sarni, Broadcast Sports, "ABC CHANNELS EFFORTS INTO PLAYOFFS," Sun Sentinel, October 4, 1986. 2021年3月10日閲覧。
- ^ Chris Jaffe, "The top ten postseason series of all-time," The Hardball Times, October 24, 2011. 2021年3月10日閲覧。
外部リンク
- Baseball-Reference.com(英語)
- 1986 American League Championship Series - IMDb(英語)
- 動画共有サイト "YouTube" にMLB公式アカウントが投稿した試合映像
- 第5戦:1986 ALCS, Game 5: Red Sox @ Angels
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- 2039
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ボストン・レッドソックス |
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球団 | |
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歴代本拠地 | |
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文化 | |
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永久欠番 | |
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レッドソックス球団殿堂 | |
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ワールドシリーズ優勝(09回) | |
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ワールドシリーズ敗退(04回) | |
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リーグ優勝(14回) | |
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できごと | |
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傘下マイナーチーム | |
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ロサンゼルス・エンゼルス |
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球団 | |
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歴代本拠地 | |
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文化 | |
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永久欠番 | |
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エンゼルス球団殿堂 | |
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ワールドシリーズ優勝(1回) | |
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リーグ優勝(1回) | |
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できごと | |
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傘下マイナーチーム | - ソルトレイク・ビーズ(AAA級)
- ロケットシティ・トラッシュパンダズ(AA級)
- トリシティ・ダストデビルズ(High-A級)
- インランド・エンパイア・シックスティシクサーズ(Low-A級)
- アリゾナ・コンプレックスリーグ・エンゼルス(Rookie級)
- ドミニカン・サマーリーグ・エンゼルス(Rookie級)
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